<幻の魚 イトウと生きる>プロローグ
4月下旬の猿払村。深い森を縫うように流れる川で、体長約80センチのイトウのペアが産卵行動に入っていた。雌が尾びれで川底をたたいて産卵床を掘り、真っ赤な婚姻色の雄が巨体を震わせて産卵を促す。イトウは個体数が少ないことから「幻の魚」と呼ばれる国内最大級の淡水魚。環境省の絶滅危惧種に指定されている。かつては本州にも生息していたが、今は道内の一部の河川・湖沼や極東ロシアのみ。道北では猿払村の猿払川水系、幌加内町の朱鞠内湖、南富良野町の空知川水系など、自然繁殖する場所は限られる。